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「エクス・マキナ」(EX MACHINA)

−人工知能の到来は避けられない−
2015年 英 アレックス・ガーランド監督



ちょっと気になっていた作品ではあったのだけれど、2016年の日本公開時には劇場にまで引っ張られず、このほどWOWOWで放映されたのを録画して鑑賞。脚本・監督はロンドン生まれのイギリス人アレックス・ガーランド。「サンシャイン2057」や「わたしを離さないで」の脚本家で、本作が初監督作品らしいが、アメリカ人の監督が撮ったら、このフィーリングは出せなかったのではなかろうか、と思った。

梗概:検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社“ブルーブック”でプログラマーとして働くケイレブは、巨万の富を築きながらも普段は滅多に姿を現さない社長のネイサンが所有する山間の別荘に1週間滞在するチャンスを得る。
しかし、人里離れたその地に到着したケイレブを待っていたのは、美しい女性型ロボット“エヴァ”に搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能のテストに協力するという、興味深くも不可思議な実験だった・・・。
(「エクス・マキナ公式サイトより」)

主要登場人物はほぼ4人のみ。人里から遠く離れた山奥のハイテクな別荘が舞台という、限りなくミニマムな設定が、人と機械はどちらか優位性を保てるのか、という主題を明確に浮き上がらせている。



巨万の富を築きながら、隠とん生活を送るITの巨人的な人物ネイサンにオスカー・アイザック、彼の会社で働く開発者ケイレブにドーナル・グリーソンが扮している。

優秀さゆえに社内で選抜されたと信じ、滅多に会えない社長の別荘に1週間滞在する機会を貰ってワクワクするケイレブ。演じるドーナル・グリーソンは、漂白されたような白い肌にブロンド、青い目で、いかにも理系でコンピューターがお友達というような、人生経験が浅い感じが出ている。



そんな彼が、人里離れた社長の別荘で出会ってしまったのが、人工知能を搭載した女性型のロボット「エヴァ」だった。エヴァの人工知能がどの程度自発的に機能しているのかをテストするのが、ケイレブがネイサンの別荘に招待された理由だった。ケイレブはエヴァと会話をしながら手探りで彼女の人工知能をテストし始めるが、会った瞬間からエヴァに魅了されてしまうのだった。エヴァもそこはかとなくケイレブの気を惹こうとする様子があり、ケイレブはネイサンがあらかじめ自分を恋するようにエヴァにプログラミングしたのでは、と疑う。



エヴァを演じるのは昨今メキメキと売り出し中の北欧美女アリシア・ヴィカンダー。スレンダーでミステリアスでコケティッシュ。申し分ない。10年前に製作されていたら、エヴァはエミリー・ブラントあたりが演じたかもしれないが、エミリー・ブラントはスレンダーでプロポーションはOKだが目元がきつい。アリシア・ヴィカンダーは眉や目に少女のような風情があり、そこからイノセントな雰囲気を醸し出している。エヴァ役においては、ヴィカンダーのこの「少女性」が大きな役割を果たしていたように思う。物語が進むにつれて、イノセントな見かけの裏側にあるしたたかな何かを観客に予感させる。そのためにも、登場した当初はできるだけイノセントに見えることが重要なのだ。



エヴァのボディのデザインも秀逸だが、機械の体に、額までの顔の部分だけ肉色の人の顔がついているというのは、ずいぶん前に何かで見たような…と考えていて思い出した。ロボコップだった。ロボコップの場合はちょっと不気味だったが、顔と手首から先にだけ人工の皮膚がついているエヴァのボディは彼女がロボットであること、しかし、なおかつ、魅惑的な美少女の顔を持っていること、をうまく印象づけるのに寄与していた。



ネイサンの別荘にはもう一人女性型ロボットがいる。メイドとして食事を作り、あまつさえネイサンの夜伽もつとめる、その名もキョウコという黒髪のアジア女性のロボットだ。彼女は会話というコミュニケーション方法を与えられていない。自らは一言も発しない。ただ、黙って言われたことを黙々とこなし、男の求めに応じる。つまりは奴隷である。
男がロボットを作り、そこに性別を与え、メイドと夜伽の役割を求めたらこういうことになるだろう、という典型でもある。そして、昔の欧米の、日本女性への蔑視のようなものも今更に感じた。わざと時代に逆行してそういう形で出しているのだろうが、何かアナクロニズムな印象も受けた。キョウコはこういうご都合主義な女性奴隷のカリカチュアでもあろうし、自ら知能を持って、膨大な検索ツールの情報を糧に学習し、成長していくエヴァと、会話さえもできず、言われた事をこなすだけのキョウコを対比させているわけだが、ティピカルというにしても、この女性型ロボットにキョウコという名をつけたことには、日本女性の一人として、いくばくかの不愉快さを感じないわけにはいかなかった。



キョウコがケイレブの前で、自分の腹部の皮膚をぺろりと剥いて内側のメカニカルなボディを出すシーンがある。続いて、キョウコは自分の目の下から皮膚を桃の皮でも剥くようにぴーっとめくって皮膚の下のメタリックな素顔を見せる。これは彼女が人ではないという事を示すと同時に、外見がいかに美しかろうとも、一皮剥いた皮膚の下はこんなものである、というシニカルなメッセージでもあるだろう。また、その様子を見たケイレブが、自分は本当に生身の人間なのか確信が持てなくなり、カミソリで皮膚を切って流れる赤い血で確認してみるシーンもうなづける。あれほど精巧にできて、なめらかに動くものが人間ではないのだとしたら、自分は一体何だろうと懐疑的になってしまわざるをえないだろう。

ネイサンは頭はいいが俗物で傲慢で、鼻持ちならない男ではあるが、別荘のわきを流れる渓流のほとりで、酒を飲みながらケイレブに、人口知能と人類の未来について語るシーンに、この映画のメッセージが込められている。



それは、人工知能はとどめようもなく発展していき、やがて、人間を見下すようになり、人工知能の支配のもとで、人類は滅びていくだろう、という予測である。いずれ凌駕され、滅ぼされる予感に怯えながら、人工知能を世の中に送り出しつつある人類。当面は便利だが、やがて人類の思惑を超えて制御不可能になっていくだろうと、誰もが漠然と心の底に不安を抱えている。人工知能と人間が共存する明るい未来ではなく、人口知能に使役され、いずれ淘汰される未来のほうが現実的な気がしてしまう。
人類は自らの死神を、自らの手で生み出してしまったのだろうか…。

もう、そう遠くない未来に、少子高齢化が進んだ国では、なり手のない職業に従事する、人工知能を搭載した人型ロボットが登場するにちがいない。それは介護の現場だったり、運送業務だったり、とかく、人手の手薄なところに登場して、当初はテクノロジーの発達で、素晴らしい未来が来た、とみんなが喜ぶ成果を生むが、やがて目に見えないところから徐々に人工知能が世界を支配し始めるのではなかろうか。コントロールできると思っていた人類をやすやすと出し抜いて、薄々危惧していた恐ろしい未来が訪れるのではなかろうか…。そんな未来への予感が映像になった作品だなという気がした。人工知能を搭載したロボットはできるだけ人型にしない方がいいのではないか、と思った。



現代は、便利だが恐ろしい世の中である。地球上の人びとがネットで繋がってしまったために、情報を集められる立場の企業や機関が裏側で操作すれば、国境など無関係に個人情報は抜かれ放題、ネットに繋がったPCやスマートフォンはカメラを備えているため、想像もしないところから生活を盗み見られる懸念は常にあるのだ。そのおぞましいほどの恐怖は映画「スノーデン」を観たときに惻々と感じた。個人情報を握られる先は最小限度に抑えておかなくてはなるまい。昨今の、facebookからの大量の個人情報流出で、facebookのみならずGoogleなどにも何らかの規制がかけられるだろうということだが、いいことだと思う。便利なものは、おそろしいものなのである。便利なところを必要最小限利用して、自分があまり利用されないようにするには、ごくごく浅く関わる以外に方法はないだろう。

コメント

  • 2018/04/20 (Fri) 23:54
    No title

    Hello,kikiさん!

    私は、ドラマ「ウエストワールド」を見たのでこちらにも興味をそそられて観ました。
    ドーナルグリーソンは大好きで彼のトッポい魅力は「アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜」に尽きると思ってます。なのでスターウォーズの新シリーズの悪役キャラはミスキャストではないかしらんと。そしてオスカーアイザックはこれまたスターウォーズではカッコいいパイロット役と、全然この映画とは違う二人に驚きました。

    アリシアヴィキャンダー!本当に人間離れしてました。良い演技。60年代のスパイものではイマイチでしたが、それ以外の映画は皆外してないですね。言われてみればエミリーブラントに似てますね。どちらも好きな女優さんです。

    ほんとうに昨今は人工知能と情報網の発達がすごくて困りますね。うっかりトランジットでチャイナに入ろうものなら、否応なくパシャっと顔写真撮られるそうですよ。おお怖。顔認証されるわけですね。このシステムはインドも相当浸透しているようです。指紋、虹彩と一緒に国民背番号に紐付けして。「1984」のビッグブラザーってAIの事だったのね、と今更ながらに思うこの頃です。ジョージオーウェルもびっくりかも!?少子高齢化の先進国ではAIロボットが進み人口過多の発展途上国では情報統制が厳しくなっているのかしらね。

    「ウエストワールド」も同じく閉じた空間での(と言ってもスケール大きい)人間とAIの対決という筋立てですがこちらはkikiさんのご感想通りイギリスならではのニュアンスが良かったです。ウエストワールドは、真っ向これぞアメリカンって感じです。ああでも、アンソニーホプキンスやエドハリスが出てて引き締まってはおります。

    キョーコ設定に対する日本人としての嫌悪感あるあるですよ〜。監督はカズオイシグロとも仲良くてエンドロールのthanks toにも名前が出てましたね。ケイレブとネイサンの会話に(私としては)唐突にオッペンハイマーの言葉(この映画の核心だと思いますが)とか原爆とかイシグロさんがこだわっていると思われる事(あくまで私見です)が出てきて日本に理解があるのかなとは思うのですが、やはり甘いかしら、この考え。アメリカでは悪役の車がいつもレクサスなのも、なんだかな〜って思うし(笑)

    合点がいかない所も沢山ありました。ネイサン飲み過ぎで自分が作ったAI見くびり過ぎ。人口皮膚ってあんなに簡単に捲れると人ごみの中ではヤバくない?と思ったり。あとキョーコ1人では食事、掃除、洗濯って全部出来ないよ!でもでもそんな些細なこと気にならないくらい映画としての完成度は高いと思います。観た後感じるそこはかとない恐怖感にやられますね〜。そして次なるものとしては、閉じた空間ではない日常生活での AI人型ロボの活動?活躍?映画がきっと来ますね。

    最後に、始まってすぐの頃、ケイレブが着替えする場面で背中に大きな傷があったのがずっと気になって途中もしかしたらケイレブもAIロボか?と思ったのですが両親と一緒に自動車事故に遭っているのでその時の傷なのね、と納得しましたが監督思わせぶり過ぎではないですか?(笑)

    • ジェーン #io8unDfk
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  • 2018/04/22 (Sun) 00:22
    No title

    ジェーンさん こんばんは。
    「アバウトタイム」も「ウエストワールド」も見てないざんすわ。
    相変わらずこまめに色々とご覧になってますわね(笑)
    ドーナル・グリーソン、初心な感じが役にはまってましたね。オスカー・アイザックもうまかったです。いい人も癖のある人も演じられるうまい俳優ですね。

    アリシア・ヴィカンダーはいいですね。もっと背の高い人なのかと思ってたけど、166cmぐらいであまり大きくないらしい。そういう面でも少女っぽい感じがしました。

    で、監督のアレックス・ガーランドですが、この人は日本好きだと思います。キョウコが刺身を切ったりするシーンは単に日本食がブームだから入れているわけじゃないと思いました。別荘での食事が箸を使うものだったりするのもね。日本の文化が好きなんでしょうね。あの渓流のほとりの別荘の静かな佇まいも日本のテイストをちょっと感じましたわ。だから、あのキョウコというのは日本女性を舐めているというわけではなく、クライマックスの反撃を際立たせるためにわざと奴隷キャラにしたのだろうし、おとなしくて黙っているというイメージが似合うのは日本女性だからキョウコという名をつけたのかな、とも思いますが、それはそれとして、ちょっと引っかかるものはありますわ。

    ケイレブも人間ではないのでは?とケイレブ自身にも疑わせ、観客にもそう思わせるために、ドーナル・グリーソンの、どこか無機的な感じのするルックスが効果的だったのかもですね。

    この先、人間社会の色々なところにAIはどんどん入ってくると思いますが、それが何をもたらし、なにを失わせるのか、その果てになにがあるのか、見届けられる範囲で見届けたいと思いますわ。

    ともあれ、最近見た中では面白い映画でしたわ。

  • 2018/05/07 (Mon) 07:52
    AI は愛なのか ・・・

    kiki さんこんにちは.

    ずっと前にこの映画のポスター写真を見て気になっていましたが、それっきり.
    先月 WOWOW オンデマンド で観つけてみました.

    男子としては エヴァ の美しさにガツーーーンですね (笑)
    この エヴァ の描写はとてもよくできていました.

    最近、SF映画のテーマの一つが AI .
    ブレードランナー のレプリカントも、結局は同じようなテーマではないでしょうか.
    だから寿命のようなものを与えていましたよね.
    そして人間と AI の恋愛感情は ・・・・

    こちらの映画はもう少し頑張ればすごくいい映画になったような気がしますが、微妙に B 級っぽい映画になっちゃったと思います.

    ネイサン が マイケル・ファスベンダー だったらどうなっていたんだろう ・・・・・ そんなことを観ながら思ってました (笑)

  • 2018/05/11 (Fri) 14:16
    Re:AIは愛なのか

    motoさん こんにちは。
    コメントありがとうございます。
    リプライ遅くてすみませぬ。

    劇場に行かなかったり、行こうとおもったけど見逃したりした作品て、WOWOWでやってくれるので有り難いですよね。ワタシは劇場よりもおうちシアターの方が集中してじっくりと見られるので好ましいため、劇場でどうしても見たほうがいい映画以外は、割にWOWOW待ちで見たりもします。

    そして本作。確かに「もう少し頑張ればすごくいい映画になったような気がしますが、微妙に B 級っぽい映画になっちゃった」という感じがしますね。でも、空気感は良かった気がします。
    そしてそして、ネイサンをファズベンだーが演じていたら、というご意見。なるほどね。確かにまた一段階、違う雰囲気が出ていたかもしれませんね。ちょっと見たかったかも。

    エヴァはなんといってもアリシアちゃんがバッチリでしたね。少女っぽくて計算高いというのは強力です。男の人はガッツーーーンと来るでしょうね。そういうツボをきっちりとついてますよね。(笑)

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