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「お父さんと伊藤さん」

−リリー・フランキー、ユルユル脱力中年の魔力−
2016年 ファントム・フィルム タナダユキ監督



アフェリエイトをやっていないので義務的に更新する必要がないため、気が向かないとけっこう間が空くようになっている当ブログ。久々の更新です。ブログを書かないからといって何もしていないわけではないですが、10年を超えると書きたいという衝動がかなり減ってくるのも事実。今後はこんな感じでユルユルと、さみだれ更新が通常モードになると思われます。(昨年ぐらいからそんな感じではありますが)
…と言い訳を書いたところで、今回の映画は「お父さんと伊藤さん」。原作も知らなかったし、映画も今年に入ってWOWOWで観るまで知らなかったのだけど、ちょっと好ましい映画として記憶された1本となった。出演は上野樹里、藤 竜也、そしてリリー・フランキー。


梗概:30代半ばの彩(上野樹里)は、バイト先で知り合った20歳も年上の伊藤さん(リリー・フランキー)と小さなアパートで同棲している。そこに兄夫婦と暮らしていた父(藤 竜也)が突如、転がり込んでくる。頑固で融通のきかない父親をけむたく感じる彩だったが、伊藤さんの方は偏屈な父といつしか打ち解けてその存在を受け入れる。かくて、3人は奇妙な共同生活を始めるのだったが…。

というもので、教員だった父を演じる藤 竜也の好演とあいまって、全編にリリー・フランキーの飄々とした味わいが効いている。藤 竜也のお父さんに対する娘を演じる上野樹里も良い。このキャスティングが成功のすべてだと思うが、よく選んだものだと思う。



リリー・フランキーを知ったのは、いまは亡きナンシー関と対談した「小さなスナック」を読んだ時だろうか。当時はイラストレーターというイメージが強かったと思う。雑文も書くイラストレーター、という感じだろうか。ワタシ的にはナンシー関が突如この世を去ったあとにリリーのブレイクが来た、という印象がある。あの「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン 」がブレイクポイントだろうと思うけれど、それと前後して発揮された多方面への才能の広がりは、彼の姉貴分のようなものだったナンシー関を凌駕してしまった観がある。
リリーは、イラストレーターであり、絵本作家であり、小説家であり、エッセイストであり、ミュージシャンであり、構成作家であり、MCであり、俳優でもある(まだ他にもあるかもしれない)という数多くの肩書きを持つ文化人であるが、ワタシがもっともその才能を強く感じるのは俳優としてのリリー・フランキーである。
俳優としての彼は、有無を言わさず巧い。どんな役をやっていてもリアルに自然にその人物になっている。演技の訓練を受けたわけでもないのだろうに、何を演じても非常に自然だ。こういう人と共演するのは、本職の俳優、いわゆる劇団などで演劇の訓練を受けて出てきたような人(リリーだって、俳優として仕事をしている時は「本職の俳優」なんだろうけど)にとっては、けっこうキツイのではなかろうかと思うけれど、どうだろうか。
何かについて才能があること、というのは、その何かについて、習わなくてもどうすればいいのかが本能的にわかっていること、ではないかと思うのだが、リリー・フランキーにとって、俳優業というのは他の何にも増してそういうものなのではないかという気がするのである。おそるべき殺人犯も、チャラい業界人も、気弱なダメ男も、リタイアした管理職の男も、なんでも演じられるし、なりきっている。



今回の伊藤さんは、50代半ばになってフリーターをしている謎の男だ。人当たりがよくへらへらしているが、時折、過去の職業が警察関係だったのではないか、というような部分をひらめかす。離婚歴があり、子供はいない。以前は何をしていたにせよ、いまはフリーターをしているのだ。そこには何か、前職にまつわるのかもしれない諦念と、そこから派生したのかもしれない物事への受容の姿勢が垣間見える。
痩せて薄毛で外見的には冴えない中年オヤジである伊藤さんだが、20歳も年長の人間として、彩をけして説教するわけではなく、こうしてみたらいいんじゃない?と柔らかく導く様子には、すがれた外観からは予想できない大人の懐の深さがあり、人としての魅力がしみ出している。この辺を脱力した様子で演じるリリー・フランキーが絶妙である。この人は声と話し方が二枚目なのだが、その魅力を駆使して、伊藤さんという人物を魅力的に造形している。ワタシはこの映画を見ていて、ちょっと伊藤さんに惚れてしまった。

お父さんを演じる藤 竜也は、ここ数年、初老を迎えて、またかなりの売れっこ状態になっている感じがする。こういう「佗しい父親」路線は、2002年の「アカルイミライ」あたりからではないかと思うのだけど、16年前のあの頃よりも、子供との間に葛藤や溝を抱えた老いた父、という存在がしっくりと馴染んで、そこに飄逸な趣も加わるようになっている気がする。
お父さんの引っ越し荷物の中にある、ちょうど骨箱のようなサイズの段ボールには一体何が入っていたのか、とても気になった。



上野樹里も、いまどきの、20代後半のように見えて30代半ばになっているフリーターの女性を演じて、等身大の感じがよく出ていた気がする。上野樹里というと、のだめのバタバタ、ワーワーというイメージがワタシには未だに抜けないのだが、女優として確かな腕を持っているのだな、ということを今更に認識した。

題材としては、「家族とは」「親子とは」というテーマを描いた作品なのだが、その演出の仕方がとてもさらりとしていて、淡々としていながら、しかし、しっかりと伝えるべきことは伝えてくる、という感じの作品で、全体にとても快かった。



ワタシも数年前の夏に、ベランダのサッシの前に日除けがわりにゴーヤを育てて一夏グリーンの窓と、次々に成って熟れ頃がくるゴーヤをもいで、友人にあげたり、自宅で炒め物を作ったりを楽しんだのだが、リリー演じる伊藤さんが、郊外のアパートの小さな庭にゴーヤを植え、丁寧に世話をする様子を見て、あの夏の日差しを遮るグリーンカーテンがふと懐かしくなった。今年の夏は久々に、またゴーヤをやってみようかな、と思ったりした。

コメント

  • 2018/03/30 (Fri) 08:24
    はじめまして

    Kikiさん、初めまして。数年前にこのブログを見つけて、過去の記事までさかのぼって楽しく拝見していました。
    映画やドラマを観たあとで、この作品はkikiさんだったらどんな感想書かれるかな~、などと思うこともしばしばでした。自分自身は映画などを観てあれこれ思うものの、うまく文章にできないので、kikiさんの文章を読んでいつもその表現に感嘆しておりました。旅行記も楽しみでした!

    これからはゆったりの更新ペースになるとのことで少し残念ですが、首を長くして更新を待っております。

  • 2018/03/31 (Sat) 13:37
    Re: はじめまして

    ちよさん はじめまして。
    コメントありがとうございます。
    最近は何か書こうという衝動のハードルが高くなったのか、単に怠け者になったのか、何かを見て、ちょっと面白いなと思っても書こうという気にならない、というものが多くなってまして、こればかりは衝動の問題なので、それが起きないとなかなか書けないんですわ。すみませぬ。でも、全く書かないというわけではないですし、お、これについては書きたい、と思うことがあったり、そういうものを見れば、書いてアップしていくつもりでございます。旅行記も、これは書きたいと思う旅行をしたら、また書こうと思っておりますので、気長におつきあいいただけると幸いです。今後ともよろしくおつきあいくださいませ。

  • 2018/04/01 (Sun) 15:27
    No title

    はじめまして。「ちよ」さんという方のコメントを読み、まるで私が書いたのかと驚きまして、書き込ませていただきます。私も2年ほど前に、ある映画のdvdを鑑賞した後、だれかの評論、感想を読みたくてこちらにたどり着きました。それ以来、dvdなど見た後は必ずkikiさんの評論を見たくて、「なるほど……そういうことか」などと、いろいろ再確認しています。私が見たものについてkikiさんが書いていないと、とても残念に思ったり。これからも書いてくださいね。隠れファンのひとりです!!

  • 2018/04/01 (Sun) 22:36
    Re:

    やよいさん こんばんは。はじめまして。
    コメントありがとうございます。
    そして、隠れファンでいてくださってありがとうございます(笑)

    ブログを始めてから5〜6年目ぐらいまでは、毎月最低でも4本は新作映画を見にいって、映画館で見てきたその日に記事を書いてアップしていましたが、そんな事はもうできません。そこまでの熱がないので(笑)でも、気持ちが動いたものについては見に行きますし、記事も書きます。そういう感じで食指が動いて書いた記事が、やよいさんがご覧になった作品とかぶるといいのですが。
    ともあれ、今後も気長におつきあいください。

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