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「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリームス」(I'll See You in My Dreams)

−夢で逢えたら−
2015年 米 ブレット・ヘイリー監督



最近、たまたまだけれど、似たような映画をNetflixで2本観た。双方、日本未公開の映画で1本はこれ、そしてもう1本はロブ・ライナー監督の「最高の人生のつくり方」(AND SO IT GOES)という映画だった。後者はマイケル・ダグラスとダイアン・キートンが共演していて、何となく「恋愛小説家」の焼き直しのような感じもあるが、悪くはなかった。「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリームス」とも共通しているのは、シニアの恋愛を取り上げているところだろうか。どちらも悪くないなと思ったけれど、日を追うにつれ、だんだんと地味な「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリームス」の方が好ましく感じられてきた。主演の素敵な初老の未亡人を演じているのはブライス・ダナー。メグ・ライアンが還暦を過ぎてうまく年を取れたらこういう感じになるかしらん、と思いながら見ていたが、この人は実人生ではグィネス・パルトローの母なのだった。 へぇー。

南カリフォルニアでリタイア後の生活を送る初老の女性キャロル。夫に先立たれ、娘も独立して愛犬のヘイゼルと暮らしていたが、犬は病を得て死んでしまう。愛犬を見送り、家に戻って呆然とワインを飲んでいると、目の前の床を大きなネズミが駆けていく。キャロルは飛び上がってポーチに出てそこで夜明かしをする。
…一人で暮らしている家に子猫ぐらいな大きさのネズミが出たら怖いだろうねぇ。そりゃ家の中に入れないわ。

夫は20年前に飛行機事故で亡くなった。彼女は若い頃に一時ジャズ歌手をしていたが、その後は教師になった。夫の死後、保険金が入ったので仕事をやめ、以後はTVを見、ゴルフをし、近所の女友達とブリッジをし、ワインを飲みつつ愛犬ヘイゼルと暮らしてきた。夫亡き後の人生のパートナーだった愛犬が死んで完全に一人になったところで、彼女に人生の転機が訪れる。
あい前後して、彼女の周辺には年代の違う二人の男性が現れるのだ。一人は彼女の家の小さなプールを清掃に来る若い男。そしてもう一人はリタイア後の悠々自適な生活を送る同年代の男である。

プール掃除人という職業はアメリカならではだなぁと思った。日本でいえば建売住宅のようなレベルの家にも芝生の庭と小さなプールが付いていて、プール掃除人などという職業がなりたつというのは実にアメリカ的である。


新たな友人となるプール掃除人ロイド

そのプール掃除人は、過去にバンド活動をしていたものの、ひとまず故郷に戻って病気の母親と同居し、金を貯めようとバイトをしているロイド(マーティン・スター)である。ぼう洋としているが邪気のない彼と何度か接するうちに意気投合し、二人でカラオケのあるバーに飲みに行く。
ここでキャロル役のブライス・ダナーが「Cry Me a River」を歌うシーンがあるのだが、雰囲気があってなかなか聴かせる。キャロルは若い頃にニューヨークのジャズバーで歌っていたという設定なので、それらしく歌えなければならないわけだが、文句なしにいい雰囲気が出ていた。余談だが、冒頭に書いた「最高の人生のつくり方」という映画の中でも初老の未亡人役のダイアン・キートンが歌うシーンが出てくる(彼女はライブ演奏のある店で歌手として歌っているという設定だ)。ダイアン・キートンは若い頃から歌っているし、声が良く、歌がうまいのも知られているが、ブライス・ダナーの歌もなかなかだった。


雰囲気抜群の歌唱を披露し、大人の魅力全開のブライス・ダナー

思うのだけど、何かの折に、ちょっとした曲をピアノでさらっと弾けるとか、何か歌ってと言われた時に、さりげなく自分の世界を醸し出せる歌を歌える、というのはカッコいい事だと思う。なんでもない普通の人がキラっと輝く瞬間である。この映画のブライス・ダナーは、そういう瞬間をさらりと表現していて、とても良かった。

もう一人の同年代の男ビル(サム・エリオット)とは、ドラッグストアで買い物中に声をかけられて顔見知りになるのだが、離婚して独り身の退職者で、ボートを持っていて、初デートにキャロルを海へと連れ出す。サム・エリオットはまさに適役で、目を細めて、火をつけない葉巻を常にくわえた姿は、まさに年を取ったマルボロマンという感じ。アメリカの粋なおじさんである。ワタシがこの人を見るとマルボロマンを連想してしまうのは、「サンキュー・スモーキング」という映画でタバコのCMに出演し続けて長年タバコを吸い続けたので肺がんになってしまった、とタバコ会社を訴えるCMタレントの役で出ていたからだと思うのだが、風貌がとにかくマルボロカントリーのマルボロマンという感じなのである。


マルボロマン的なサム・エリオット

ビルとキャロルは似合いの二人で、還暦を過ぎても、人生には素敵な出会いがある、という事を自然に描きつつロマンティックにも味付けしていて、いい感じである。
二人のデートシーンには、誰かと新しく出会って、何か物事が動きだすときの、あのワクワクする感じが伝わってくる。キャロルにとってはビルが本命な事は間違いないのだが、慎重な彼女は再婚しようというビルにすぐに色良い返事ができない。しかし、一緒にいるとときめくし、好きな事は間違いない。このまま少し時間を重ねて大丈夫と思ったら結婚するかもしれない…と華やいだ気持ちでいたキャロルに、ある日突然、予期せぬ悲報が舞い込むのだった…。

というわけで、良い事もあれば辛いこともある。いい時ばかりでもないし、悪い時ばかりでもない人生というものを、過剰にならずに、一人の未亡人を通して描いている好感の持てる映画。リタイアした人も、人生そのものが終わっているわけではなく、老境の人にはそれなりの人生があり、恋愛があり、性生活があり、人間は死ぬまで豊かな気持ちで生きているのだ、ということを力まず描いた作品だった。

息子のような年齢のプール掃除人ロイドとの淡い交流もキャロルの人生を彩っている。ロイドは母親のような年齢のキャロルに、素敵な女友達としての親近感を持っている。顧客でもあるし、人生の先輩でもあり、歌のうまい彼女に淡い憧れのような気持ちもあるのかもしれない。

そしてキャロルは、折々悩まされていた大きなネズミをたまたま家に遊びにきていたロイドが捕まえたのを見て、それまでずっと内側でつっかえて固まっていた悲しみを涙として外に出すことが可能になる。ずっと連れ添ってきた愛犬を病で亡くし、そして知り合ったばかりのボーイフレンドを突如失っても、どこか淡々として、激しく嘆き哀しむことのできなかったキャロルが、ロイドという若い新たな友人の前で、やっとこわばっていた感情を溶かして泣く事ができるようになる。泣くことは自分を解放することなのだろう。一人であまりにも悲しいと、人は感情がスタックしてしまって感傷に溺れることができなくなってしまうのかもしれない。
固まっていたキャロルの心をほぐすロイドを演じるマーティン・スターも控えめに好演している。
キャロルを取り囲むリタイアメント仲間の初老の女友達3人も、かしましいが微笑ましい。



全体に自然でさらりとしたタッチで、アメリカのコメディタッチの映画にありがちなドタバタやわざとらしさが全くない。安易なハッピーエンディングもない。人生の豊かさも感じさせるが、命の儚さも描かれている。それでいて、見終わるとなにかホワリとした気分になる。脚本がうまいのだと思うけれど、演出もさりげなくて良い。無論のこと、俳優たちの演技もいい。コミカルな部分もあるがシリアスな部分もあり、ロマンティックな部分もある。それらが自然に、さらりと描かれているのが心地よいのである。

また、主演のブライス・ダナーが魅力的な初老の女性を演じて、ことのほか素敵である。娘のグィネスよりも品と愛嬌があり、年齢を重ねているが、まだまだ女性として美しい。60代半ばになったらこういう女性になりたいな、と思わせる魅力がある。
脚本を書き、この映画を監督したブレット・ヘイリーは、おそらく、ヒロインにまずはブライス・ダナーありきで執筆を始めたのだろうと思うけれど、彼女を筆頭にサム・エリオットもマーティン・スターも、ピタリとハマっている。絶妙なキャスティングだと思う。

1時間半と短いが、良質で、思わぬ掘り出しものをしたような気分になる映画だった。日本ではまだソフト化はされていないようだけれど、未公開作品でも、どこかの映画チャンネルで流れたりもすると思うので、興味と機会があればご覧になっていただきたい作品。

本作を見ながら、素敵な年の重ね方をしたいものだな、と改めて思った。

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