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「ザ・クラウン」(The Crown)シーズン2

−誰にも苦い過去がある−
2017年 Left Bank Pictures, Sony Pictures Television Production UK 他 Netflix配給



昨年の11月にシーズン1を見て以来、楽しみにしていたシーズン2がNetflixから配信開始になり、早速鑑賞。今回は主に1950年代半ばから1960年代初頭にかけてのエリザベス女王と彼女を取り巻く周囲の人々、そしてその時代が描かれていた。いや〜、今回も非常に面白かった。ミッドセンチュリーという時代背景も興味深いせいか、シーズン1を上回る出来栄えで、特に主演のクレア・フォイの上手さには舌を巻いた。

前半は主に、エリザベスとその夫であるフィリップの関係がギクシャクしていた時期が描かれている。フィリップ殿下ことエジンバラ公は、バリバリの海軍軍人だったのに、妻が父王の早世により想定よりずっと早く女王になってしまったせいで自らの軍歴を諦めざるをえなくなり、女王の傍らに立って手を振り、ただ世嗣ぎを作るための種馬のような扱いになったことに根深いストレスと不満を感じていた事が、男ざかりの時期にさしかかって女遊びという形で発散されるようになる。このドラマでのフィリップ殿下は奇妙な顔つきのマット・スミス(「ドクター・フー」でブレイクした俳優)が演じているが、若い頃からハンサムで鳴らし、女性にモテて、90を過ぎても矍鑠として背筋が伸びている実際のフィリップ殿下と比べると、猫背でハイエナみたいな顔つきのマット・スミスは一見、適役とは言えない雰囲気である。


そこはかとなく胡散臭い雰囲気を醸し出すマット・スミスのフィリップ殿下

何やら制作サイドのフィリップ殿下に対する悪意さえ感じなくもないけれども、女王の夫でありながら息子よりも地位が低い自分のアイデンティティに憤る、「複雑なバックボーンを抱えた複雑な男」としてフィリップ殿下を捉えるならば、この配役はなかなか味わい深いと言えるかもしれない。マット・スミスはこのドラマ内でユニークなフィリップ像を演じ、制作サイドも実際のフィリップ殿下とは雰囲気的にまるで似ていなくても意に介していないように感じる。それは当初からの意図でもあろうし、エジンバラ公フィリップという人物を掘り下げ、もっと深い陰影を与えるためになされた事だと思われる。が、個人的にはもうちょっと颯爽とした二枚目系の人がそういう複雑な人物を演じた方が良かったのではなかろうか、という気もする。演技はともかく、マット・スミスがあまりに奇妙な顔だちすぎるので…。



今回はそのフィリップ殿下の孤独で辛い少年時代も折に触れて綴られている。ギリシャ王の息子に産まれながら、生後すぐに起きたクーデターで父は王位を追われ、4人の姉とフィリップを含む一家は亡命生活を余儀なくされる。父の度重なる不貞により両親は不仲で、あまつさえ母は精神を病んでしまう。4人の姉が次々に結婚すると、母方の叔父マウントバッテン卿を頼って渡英。スコットランドにあるゴールドストウンという寄宿学校に入るが、そこは独自の理念に基づくスパルタ教育の学校だった。自身がここで鍛えられたということで、のちに息子のチャールズを強引に入学させるが、イートン校に行きたかったチャールズにとっては監獄に投げ込まれたような5年間だったらしい。それでもどうかこうか卒業しているが、チャールズはのちに自分の二人の息子たちはイートン校に入学させている。フィリップが誰がなんと言おうと強引にこの学校に息子を入学させたのは、自身によほどいい思い出があったからだろうと思いきや、彼は当初全くこの学校に馴染めず、さらには生涯のトラウマになりそうな姉の事故死も、この時期に起こっていた。
それらを乗り越えて今がある、という信念から、ひよわで繊細な息子を鍛えようと思ったのではあろうが、嫌がる息子に質実剛健をしいる様子は過去の自分への復讐のようにも見えて、根深い屈折を感じさせる。

少年時代のチャールズをちょっと可愛い少年が演じていたが、チャールズ役なので耳は大きい。母親は女王であることを優先してあまり愛情を示してくれず、厳しい父親は父というよりスパルタ教官のようだったらしいチャールズも、あまり幸せとはいえない少年時代を送ったようだ。ダイアナの一件で世間の非難を浴びつつも、結局、初志を貫徹して好きな女と結婚したチャールズ。ひよわそうだが、しぶとくて意思が強い。ゴールドストウンで耐え抜いたおかげかもしれない。

シーズン2では、50年代後半から60年代初頭にかけてのフィリップ殿下が女性問題でけっこう女王を悩ませたらしい事も描かれている。女王は初恋の男と結婚し、フィリップをずっと愛し続けているようだ。イギリス国教会の長だから離婚できないという事を抜きにしてもフィリップとは何があろうと離婚したくなかったようだ。チャールズとアンという子供がすでにいるのだから、もう子供はいらないのではと思うけれども、その後さらにアンドリューとエドワードという王子を生んでいる。夫に惚れ続け、公務の合間に孕んで出産し、公務に戻る。そんなエリザベス女王の姿をドラマで見ていると、なにがなし女王が与謝野晶子のようにも見えてくる。晶子も鉄幹の女性問題に悩まされ続け、次々に鉄幹の子を孕んでは産み、休む暇なく仕事を続けた…。

女王も30代も半ばになり、自分もだんだん中年になっていくなぁと思い始めた頃に、アメリカ大統領ケネディがその妻ジャクリーンと共に世界に華々しく登場してくる。エリザベス女王とジャクリーン・ケネディは女王が3歳上だが、ほぼ同年代らしい。
大統領夫妻の欧州外遊で、パリ訪問ののちにロンドンに来るという時、女王の周囲では使用人ばかりか夫のフィリップさえも歓迎晩餐会で隣に座りたいとウキウキで大はしゃぎをする。食事のあとで宮殿内を案内して回り、ジャクリーンと会話して彼女に好感を持つ女王だが、その後、別の席でジャクリーンが自分について侮蔑的な発言をしていたと聞かされる…。
このあたりは脚本が非常にうまい。ジャクリーンが人を惹きつけたのはどういうところなのか、また、華やかなうわべの下で夫の女性問題に悩まされ続けた結婚生活と大統領夫人としての公務の重みが、彼女にストレスを与えていたという部分も描いて ジャクリーンを悪者にはしていない。



女王は自分が惰性で公務をこなしている、向上心も知性も教養もない退屈な中年女である、と評された事に発奮して、当時西側を離脱してソ連の傘下に入りかけていたガーナを訪問。ガーナの大統領とダンスを踊る代わりに西側に留まることを約束させ、1曲踊ってガーナを残留させ、女王ならではの外交手腕を発揮してみせる。その後、ケネディが暗殺され、未亡人になったジャクリーンに、女王は "Dear Mrs. Kennedy" という書き出しで、直筆でおくやみの手紙を書く…。

そして、女王の妹マーガレット王女の痛ましい結婚の顛末も描かれる。マーガレット王女は、少女の頃から好きだったタウンゼント大佐との仲を裂かれた後は男運が悪くなり、やけくそな日々を送っていたが、やがてハンサムな写真家アンソニーと知り合う。しかし、この男は魅力もあるかわりに問題も多い男で、男とも女とも錯綜した肉体関係を持ち、複雑な生い立ちで、母親に愛されずに育ったために根本的にねじれてしまっているような男だった。危うい相手ではあったが、過去にタウンゼントとの仲を裂いてマーガレットを不幸にしているので、女王も周囲も、結婚したいという彼女を 止めることはできなかった。マーガレット王女の最初にして最大の恋愛−タウンゼント大佐との恋愛がよってたかって引き裂かれた事の裏には、王室関係者の、エドワード8世の王冠を捨てた恋への恐怖と反動があった。マーガレット王女は気の毒な犠牲者だった。もしも彼女が多少の障害はあったにしても、初恋の男と結婚できていたら、波乱のない人生が送れたのではないかと思うが、往々にして人は最初の大恋愛につまづくと、けっこうその後の人生がつまづきっぱなしになってしまうような気がする。



英国王室ではその後、チャールズとダイアナの不幸な結婚とその失敗を経て、チャールズがついに初志貫徹して初恋の女と結婚した事で、昨今の、チャールズの次男であるヘンリー王子の婚約が、大げさな物議を醸さずに認められる流れになったのだと思う。
ヘンリーの婚約が周囲から激しい反対を受けずに認められたのは、彼が長男でなかったことも大きいだろうけれど、それまでに英国王室が繰り返してきた過ちと、しきたりや慣例のために人生が台無しになった人々の犠牲の上に、ようやく事なきを得たのだと思うと、つくづくマーガレット王女が不憫に思えてならない。もっと遅くに生まれていれば、すんなりと初恋が成就したのだろうに。…ヘンリー王子の婚約がスムーズに成立したのは、さまざまな過去の人柱があっての事なのだな、とつくづく感じた。

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マーガレットとの結婚でスノードン伯爵の称号を貰う写真家アンソニー・アームストロング=ジョーンズを演じたのはマシュー・グード。実物より男前だが、才能はあるが危険な男の魔性を表現するにはピッタリな配役だと思う。

その他、パリに追い払われたウインザー公(退位後のエドワード8世)が、日々を無為に遊び暮らすのに飽き足らなくなり、公務に復帰したいとあれこれ画策し、ロンドンに来てエリザベスに仕事をさせてほしいと嘆願する。エリザベスは悩みつつも叔父を赦そうと思うのだが、時を同じくして戦時中にナチにすり寄り、その力を借りて自分がイギリス国王に返り咲こうとしていた事がエリザベスの知るところとなり、ウインザー公が永久の所払いとなるエピソードもある。

シーズン2はかように盛りだくさんで、しかし、脚本と演出、そして俳優たちの演技のレベルが高く、全10話のエピソードをほとんど一気に観てしまった。



それにしても、
いろいろあった果てに英国王室は腹が据わったのか、よくまぁ、ここまでドラマで描かれて何も言わないなと思うけれども(特にフィリップ殿下に関する部分など)、とにかく脚本がとても妙味があって、どんな人物にもいろいろな面があり、誰の言動にもその寄ってきたるところがあるのだ、ということがキメ細かく描かれている。そして、ここが肝心なところだけれど、エリザベス女王は若くして父から王冠を受け継ぎ、20世紀半ばから激動の時代をくぐり抜けつつ、その時その時を頑張ってきたのだな、と視聴者が思うようにできている、という事だ。(それには少なからず、クレア・フォイの自然で抑制の効いた女王としての演技が寄与していると思う)そこが揺らいでいないので、英国王室としてはOKという事なのかな、とも思うけれども、しかしまぁ、こういう、かなり突っ込んだ内容のドラマを黙認しているというのは、英国王室も腹が据わってるなぁ、とつくづく思わないわけにはいかない。ウインザー家は「王室の存続」ということを最大の使命と捉えているようなので、つつみ隠すよりもフランクに表に出した方が大衆受けがいいという事を知ったら、徹底してそっちの方向に舵を切っていくのだな、と、ちょっと感心してしまった。

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関連リンク 「ザ・クラウン」シーズン1

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