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黒革の手帖

—「お勉強させていただきます」 野心家悪女モノ6度目のドラマ化—
2017年 テレビ朝日



地上波は殆ど見ていないワタシなのだけど、「黒革の手帖」は元々、原作も好きだし、旧作のドラマも見ているので、今回はどういう仕上がりなのだろうかと興味が湧き、1回目は見のがしてしまったものの、2回目から見始めた。武井 咲の野心ギラギラの猫目の目力が、スッキリとした着物姿とあいまって、なかなかナイスである。

演技をしている武井 咲を見るのは今回が初めてなのだけど、ヒロインの原口元子にピッタリとハマっている。芝居も巧いし、見た目は小綺麗だが、頭の中では常に黒い計算を巡らし、悪い奴らの上前をハネて伸し上がる事だけを考えている女の雰囲気が地じゃないかと思われるぐらいにじみ出ている。何よりもその大きな目が効いている。瞳の中に野望がメラメラしている。全体にゴツくてオラオラ感のあった米倉涼子よりも、ワタシ的には武井 咲の方が役にハマっている感じがした。というのも、最初のドラマ化である山本陽子版を見ているので、武井 咲の方がそのフィーリングに近い感じがするからかもしれない。今回は、原口元子が元は銀行で働く派遣社員だったという設定になっているのも平成風味。原作の骨子はそのままで部分的にアレンジできるところは平成風にアレンジしている。定番的な作品をリメイクするときには、そういうさりげない工夫が必要なのだろう。

だが、「銀座のママ」といえば高価な和服に鯛の目玉のような宝石の指輪、結い上げた髪に大きめの髪飾りというイメージは万古不変なのか、今回も銀座のママになった元子はママらしい和服をとっかえひっかえで登場。背中を反り返らせてシャキっと着こなす和服姿はビシっと決まっていて、目に快い。着物が似合うというのは日本の女優としては逃せないポイント。だが女優なら誰でも似合うかというと、そういうものでもないように思う。着物は体型を隠すなどというが、やせ形で板のような体つきの人がもっとも着物を美しく着こなせる。凹凸はなるべくなく、肉付きは薄めの方がいいのだ。ほっそりとして小顔で背の高い武井 咲は真夏に着物を着ていても全く暑苦しさを感じさせない。涼しげでスッキリとして、なかなかの女っぷりである。

武井 咲ばかりではなく、元同僚の地味な派遣OLで、元子にスカウトされて店で働き出すや豹変して野望をたぎらせ、元子と火花を散らすホステス山村波子を演じる仲里依紗も、銀座のバーのホステスというよりは新宿のキャバクラのおねえちゃんっぽいけれども、それなりの存在感があった。この波子に夢中になって鼻の下を伸ばし、店を出してやる約束などをする、美容整形でガバガバ儲けている楢林院長(奥田瑛二)のエロおやじっぷりや、その院長に疎ましがられつつも世話女房のように尽して棄てられる看護士長を演じた高畑淳子も、いかにもなハマり役で良かった。息子のスキャンダルでかなりのイメージダウンになった高畑の最新出演作としては、まさにこれ以上はない役だったのではなかろうか。元子の口車に載せられかけながらも、院長を裏切った罪の意識に苛まれて金を受け取らずに去って行く看護士長だが、野望に燃え、金の亡者のような元子に「誰も愛した事がないなんて、あなたは幸せなの?あなたには本当の女の幸せが分ってないのよ」と捨て台詞を残す。

男に尽くすことが女の幸せだなんて、ケ!という感じの元子だが、しかし、野望に生きて誰も愛してなどいないと自他共に思っている彼女も、政治家として世に出ようと目論む安島富夫には心惹かれている。この安島というのは確か、元子の野望が破綻するキッカケになる存在だったと思う。冷徹な計算と燃え盛る野望のもとに計画を着々と実行に移してきた元子が、いわば、自分の中の女に抗えずに、というか、野望だけの無味乾燥の人生に、求めずにはいられなかった心の拠り所が安島という男だったのだろうが、しかし…というわけで、この安島というキャラクターは最初の山本陽子版では、ヌボーっとして金も力もない色男のつっころばしの二枚目という描かれ方をして、田村正和がザ・田村マサカズという感じで演じていたが、今回、江口洋介が演じている安島は、選挙に当選するために政略結婚を辞さない野心家ではあるものの、そこはかとなく誠実そうな気配を漂わせてもいる。が、根本的に政治家の資質があるらしく、案外と図太く腹の座ったところもあるし、得体の知れないところもある男である。苦悩しているような顔をしながら、平然と人を裏切りそうな感じもする。それゆえに、元子を待ち受ける地獄が何やら今から予想できるような感じもして、薄目を開けつつもなりゆきが楽しみである。
江口洋介とか仲村トオルというのは、俳優として別に巧くはないものの、柄としてこういう役にはハマるのかもしれない。

裏口入学の斡旋でガバガバと儲けている受験予備校の理事長役には高嶋政伸。こういう役にはまだ少し若いような気もするが、かなりイヤらしく気持ち悪い感じは出ている。ははは。役の幅を広げた、という感じなのだろうか。今後、こういう役が増えそうではある。

裏の世界で暗躍するフィクサーを演じるのは伊東四郎。伊東四郎はこの手の役ならもっと迫力を出して老獪に演じられると思うのだけど、今のところ、何か中途半端な感じで演じている。好々爺の仮面を被った悪党、というニュアンスで演じているのかもしれないが、それだとしても微妙である。きっとこれからどんどん怖くなるのだろうと思うけれど。

でもまぁ、キャスティングは総体に違和感なしにハマっている。何よりもやはり、主演の武井 咲が力の漲る大きな目にものを言わせて、野望に生きる女を魅力的に演じている。着物美人が好きなワタシとしては、毎回、彼女の着物姿を眺めるだけでも、このドラマを見る愉しみがあるというもの。元子のファッションということで、番組公式サイトには元子のオフ時の服やバッグ、靴のコーディネートが紹介されているが、このドラマの武井 咲が輝きを放っているのは、真打ちの着物姿のときであるのは言うまでもない。

今回のドラマ化において、銀座で元子が誰かと話をする時は「風月堂」を使うのが定番らしいのも「うふふ」という感じ。銀座の風月堂は変に今風に改装していない店内と、通りに面した窓辺が一面にガラス張りでとても心地よいのが特色だ。この前は、ここで元子と、彼女が短期間修行した銀座の老舗クラブ「燭台」のママ(真矢ミキ)が昼日中から盛大に着飾った「銀座ママの正装」的な着物姿で向かい合うシーンがあり、ちょっと笑ってしまった。いくら銀座のママだからって、昼日中からあんな頑張った髪と化粧と着物で出歩いたりしないでしょうよ(特に真矢ミキ。猛烈すぎ)と、ワタシはこういうドラマを見るといつも思ってしまうのだ。ママだって四六時中着物で頑張っているわけでもあるまい。出勤前という設定にしてもお天道様が高過ぎるってものである。
むしろ、ママさんたちは、出勤時間になる前は殊更に目立たない格好をしているのではないか、という気がするのだけど。…まぁ、わかりませんが。



それはさておき、「銀行勤めの時に入手した架空名義口座を書き込んだ黒革の手帖を武器に海千山千の小悪党たちを恐喝して夜の銀座で伸し上がろうという野望を燃やす若い女」という設定は、やはり昭和的だなという感じは否めない。手帖はやはり昔ながらの手書きの手帖でIT機器とかではないアナログさである。しかし、やはりこれは手書きの手帖であらねばならないのだろうな。いくら時代が変わっても。
ドラマを観ていると、今はそんなにまでして銀座のママになりたがる女はいないのではなかろうか、とふと思ってしまったけど、そうでもないのだろうか。銀座で一番のママになること、というのは、未だにそこまでステータスのあることなのだろうか。
ついでに、赤坂あたりの一等地にある老舗料亭が土地ぐるみで3億程度で買えるものだろうか、というのも首を捻りたくなるところ。もっとするでしょうに…などと、ツッコミを入れたくなってしまうが、原作通りの昭和50年代という過去の話ではなく、いま現在の平成の話として描くと、そういう点が些か気になるところではある。(むしろ都内の地価は昭和50年代ぐらいの方が今より高かったかもしれないけれど…)

それにしても、松本清張原作ものの人気は根強い。清張ものは、そもそも昭和40年代ぐらいからずっとドラマや映画の定番になって久しいが、時は移り、昭和が平成になって30年たとうかという現在でも、作品としての魅力や生命力は薄れないどころか、むしろ永遠の生命を得たかのようである。それは、一般人では垣間見ることのできない世界、夜の銀座にうごめく人々や人間模様、また、政財界のフィクサーの世界など、我々の日常とは特殊フィルターを隔てて存在する別世界を、松本清張の作品を読む事で些かなりとも知ることができる、想像することができる、という「探訪の誘惑」がいまだに薄れない魅惑を放っているからなのかもしれない。そして、それらの裏の世界を支配するのは飽くなき人間の欲である、というのも、普遍的で腹落ちするのであろう。平成の今となってみれば、昭和へのノスタルジアもそこに加味されるのかもしれない。

実はワタシは前回の米倉涼子版は殆ど(というかほぼ全く)観ていないのだけど、割に評判が良くて、「黒革の手帖」に続いて「けものみち」もドラマ化されたらしい。そういえばやっていたような気もする。
すると、もしかしていま放映している「黒革の手帖」が当ると、テレビ朝日は武井 咲主演で「けものみち」をまたドラマ化したりするのだろうか。それはそれで観てみたい気もするのだけど、病気の夫を抱えた料亭の仲居というヒロインを平成風にどうアレンジするのか観てみたいところではあるし、武井 咲はそれなりに巧くヒロインを演じるのではないかと思うが、「けものみち」のヒロインは「黒革の手帖」の元子のように自らの野望に突き動かされて猛然と行動するタイプの女ではなく、惚れた男の言うなりになって破滅への道を突き進む女なので、武井 咲のあのギラギラとした目力はあまり生かされないかもしれない。

いずれにしても、今回の「黒革の手帖」は面白い。
画面の背後によく映り込んでいる銀座の風景も、あ、あれはあの通りだな、とか、これはあの店だな、とかあのビルだな、とか思いながら眺め、そういう背景の前を美しい着物姿で涼しげに歩く武井 咲の姿を眺めるのも楽しみだ。

毎クール観る気にはならないが、気になるドラマがあるときには、久しぶりに地上波の連ドラを観るのもけっこう楽しいな、と改めて思った。

コメント

  • 2017/08/21 (Mon) 21:51

    kikiさん、こんばんは。
    観てますよ、わたくしも。集中して観てるワケではありませんが、なんだか武井咲が化け始めたというか…今までは演技力の下手な美人ちゃんかイオンのCMの印象しかなくて…
    デビュー当時は夏目雅子の再来だなんてキャッチフレーズと共に鳴り物入りで芸能界に入ってきて、彼女がまだ13〜14才だった頃、メイクなどすればすでに大人の色気を醸し出してたりしてましたが、結局「瀬戸内少年野球団など夏目雅子と同じ役などやらされて、役者としての差を見せちゃった気が致しておりましたが、ここで松本清張の黒革の手帖で一気に女優の質を上げましたな。
    確かに彼女は決して頭の良い女優とは言い切れないけれど(元ヤンとの噂)、しかし和服がこうも似合い、目線や首の動きや佇まいなどが「演じる女優」化したのは本作が初めてではなかろうか。
    アノ大きな目は本作のようにずる賢く冷ややかに笑うのには適してるけれど、彼女は爽やかに笑ったり歯を見せて笑う時は目尻か垂れ過ぎて普段のクールな印象の造形が台無しになり、一気に幼い表情になっちゃうんですね。
    米倉涼子よりもいいし、米倉涼子版を凌駕してるとの噂。頑張って。

    風月堂、出てますね。
    先週の回で武井咲が座った席、わたしも座ったんだけど…わたし、あそこに傘を忘れて…次の日わざわざ取りに…なーんて思いながら観てました。

    • Sanctuary #V0sVL5lk
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  • 2017/08/23 (Wed) 00:56

    Sanctuaryさん こんばんは。
    確かに「化け始めた」って感じのようですね。ワタシは武井 咲という女優が演技をしているのを見たのが初めてなので、前はどんなもんだったのか知らないんですが、なんか特に何がどうということもない若いおねえちゃん、というようなイメージしか無かったざますわ。でもここで一皮剥けてぐわっと女優になってきた、という感じですかね(笑)元ヤンなんですか。あの目力はさもありなん、て感じ。芸能界はそういう人の方が気合が入っているから成功しやすいんでしょうね。
    これまでは演じていてあまり気乗りしない役が多かったのかもしれないけど(清純派なんて勘弁してよって感じだったのかも)、今回はノッてるんでしょうね。これからどんどん、いろんな役をやるたびに凄い勢いで吸収していくんじゃないかという感じがします。何より着物の着こなしがいいですよね。非常にサマになってます。女っぷりが何段階か上がってますよね。

    そして、風月堂をああいう形で生かしてくれると嬉しいですよね。あの窓辺は気持ちいいんですよね。上手く空いてないことも多いんだけど…(笑)

  • 2017/09/01 (Fri) 18:41

    あー!
    黒革手帖ママ、デキ婚!
    猿ザイルのボーカルと。
    付き合ってたのは知っていたけど、やはり頭の程度は…。
    う~ん…お似合いかもね。
    ドラマに支障がなければよいけれど。まあ、後半に入り、いよいよ全てから裏切られ始めるところですね。
    今週はサッカーで観れず…。

    • Sanctuary #V0sVL5lk
    • URL
    • 編集
  • 2017/09/04 (Mon) 21:48

    Sanctuaryさん。
    あー、そういえばYahooニュースにそんなの出てましたね。

    …というか、Sanctuaryさん、かなり芸能ゴシップお好きですのね。ふふふ。

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