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 「きつねと私の12か月」

のささやき~
2007年 仏 リュック・ジャケ監督



お話はなんとなく分かりきっているような感じもするのだけど、
昨年劇場でトレーラーを観て、その自然描写の美しさが妙に網膜に残った本作。
しかも、主要な舞台は。ワタシはフェチ。とにかく美しいの風景にヨワイ。ドキュメンタリー「Tokyo Joe」もかなり気になりつつも、今週はに引かれてガーデンプレイスでそばかす少女と野生のきつねの物語を観てきた。すると、普段は観ないジャンルの映画を観に行った功徳か、予期せぬオマケがついてきた。本編前の予告編タイムにGサマことジェラルド・バトラーの待望の新作「ロックンローラ」が流れたのだ。きゃ?!トレーラーで観る限り、ワタシの観たい感じのGサマが観られそうな予感しきり。

 うふんうふん

長く待ったが公開は2月!ガーデンシネマ、ありがとう。待ってたよ、というわけで、
本編前からすっかり気をよくして、いざ、きつねの棲むへ。

冒頭から、清澄な空気をすかして降り注ぐ透明な陽光に包まれる美しい秋のにため息。
秋のからスタートされては、ちゃんと見ないわけにはいかない。
とにかく自然を映し出す映像がえもいわれない美しさ。
画面に映っている大気や光の美しさというべきだろうか。
空や陽光の美しさがとりわけて網膜に染み入る。
おまけに、これでもかと現れる秋の
落ち葉が一面に散り敷く白樺の林に、はらはらと音もなく散る金色の木の葉。
永遠にそのシーンだけを観ていても飽きないだろうと思われる詩的な映像だった。

赤毛のそばかす少女リラと、彼女が一目で魅せられた野生のきつね、ティト。
その美しい野生に、少女は一目惚れをする。
ティトは雌で、冬の間に母になるのだが、少女リラがティトを追い、みつめる視線は恋そのもの。
なんとか野生のきつねを馴れさせてみたいというひそかな野望を胸に、少女は日々、へ出かける。

きつねは冬の終わりに発情期を迎えるらしい。
青い月明かりに照らされて、の中で一晩中はしゃぎながらくるくると追いかけあう
雄と雌の姿が印象的な映像で綴られる。

また、このときたら、かわうそに熊に狼にイタチ、アライグマ、ハリネズミ、鹿、鷲 とおそよ森にいそうな生き物はなんでもいる凄い森。(アルプスの森らしい。凄いのは当然か)
少女リラは成長の傍らに森があったせいか、とにかく熊も狼も、かなり間近に現れているのにあまり動じない肝っ玉少女である。日本やハリウッドの映画だったら、必ず金属的な悲鳴をあげて大騒ぎというシーンになるところだが、リラは静かに息をひそめて、かなり間近まで来ている熊や狼をじっと見るのだ。無駄な大騒ぎはしない。けれど、水辺や草原などでは少女らしく大はしゃぎする。でも蛇にもあまり動じない自然派なのだ。なかなかヤルね。リラを演じる少女は赤毛のそばかすで鼻が上を向いていてファニーフェイス。「赤毛のアン」型キャラといえなくもないが、自然体でわざとらしさがなく、森と動物が好きで、好奇心に満ちている感じが良く出ていた。リラは森のすぐそばに両親と住んでいるが、両親は声だけで姿は見えない。あくまでも、森と少女ときつねを代表とする森の生き物だけで構成されている作品なのだ。余計なものは登場しないのである。



少女リラの部屋が、風景描写と同じぐらいに良いのだが、こんな部屋で夢を見て育った子供は童話作家になっちゃうだろうねぇ、というようなウッディで物語世界のような部屋だ。その部屋には丸い窓が嵌っている。この円形の窓というのは子供部屋の窓として理想的な気がする。
印象的なこの円形の窓は、クライマックスでまた思いがけぬ役割をになう。

巣穴の傍に張り込んで、警戒したきつねに引越しされたりしながら、粘り強く餌付けに成功したリラは、警戒心を解いて近寄ってくるようになったティトに、犬か猫のように首輪代わりのスカーフを巻き、それに綱をつけようとするのだが、野生のきつねは断固としてそれを振りきる。
秋の森に始まり、冬、春、夏と徐々に距離を縮めて、リラが笛で呼ぶと姿を現すまでになっていたティトだが、リラがペットのように扱おうとすると、これを峻拒する。親しい仲にはなっても、どちらかの世界に入り込んで生きることはできない。野生動物と人間の間には、飛び越えられない壁があり、野生の生き物は愛玩動物ではないのだ、という事を少女リラが身に沁みて感じるまでの物語。
筋としては当り前の事を言っているだけなのだけど、淡々としていて説教臭がないし、これでもかと美しい風景描写を混ぜ込みつつのメッセージなので、素直に受け取っておこうかなという気分になる。

こういう動物を使った映画を観ると、毎度こんな瞬間はどうやって撮るんだろうと思う事が多いが、大山猫とティトとの猛烈なチェイス。必死の思いで山猫をかわして穴に逃げ込んだティトが首をぴょっと出して周囲を窺う時の必死な目つきというのは教えてできるものでもなし、迫真の表情だ。追い詰められてデスパレートになっているのが目の色だけでありありと窺える。
また、枯れ木の上に追い詰められ、猛然と追ってきた5匹の狼の群れが下から牙をむき出して飛びつこうとしているシーンでは、あそこまで猛烈に牙をむき出して獰猛な顔になった狼というのはそれまでに観た事がなかったので、素直にやはり狼は怖い、と思った。それまでは人間の一方的なイメージで狼なんか撃ったっていいや、と狩猟の対象にされてきて絶滅に瀕しているとか聞いていたので、狼にはかなり同情的だったワタシなのだが、やはりあの牙はインパクトがありすぎる。歯茎までむき出されると、ちと怖気づきますねぇ…。



それにしても、言葉が通じるわけでもなく、意のままに動く事のない生き物を使って、意図した状況を撮り、狙った表情をキャッチするのは並大抵でない根気がいることだろう。この監督は「皇帝ペンギン」を撮った人らしいが、こういう異常なまでに辛抱強く自然や動物を撮る監督というのは、欧州に多い気がする。

劇場はけっこう空いていたのだけれど、あの美しい風景描写は一見の価値ありだと思う。
大気と光線がこんなにも世界を美しく見せるのか、という事を改めて認識させられた。

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